白血球の浸潤を特徴とする炎症反応では、浸潤を抑制すると炎症反応も抑制される。また動脈硬化におけるマクロファージの血管内泡沫化でも、その初期は浸潤であると言われている。この白血球の浸潤は初めに血管内皮上で、転がり運動"ローリング"が起こり、次に血管内皮上で粘着が起こり、次に内皮細胞の隙間から潜り込んで血管外へ遊走していくことが知られている。白血球の血管内動態は現在主に生体顕微鏡を用いた動的観察法が用いられ、この方法は優れた方法であるが、いくつかの欠点があり、そのひとつは、手術の侵襲だけでローリングが起こることがしばしばである。そのため薬物の純粋な効果を調べることやあるいは浸潤の引き金となるものは何かという検討をすることはかなり困難である。そこで組織標本を作成し、それを光学顕微鏡下で観察し白血球の動態解析に用いる方法を考案した。この方法を用いて炎症反応の初期に関与する接着タンパクの種類やその性質などを各種阻害薬あるいは特異的な抗体などを用いて解析した。 腹腔に起炎剤で炎症を惹起したラットの腸間膜細静脈の組織標本を作成し、ギムザ染色後、それを光学顕微鏡下で観察し、血管内白血球を分別測定し、生体顕微鏡を用いた動態解析との比較をする。この方法と繁用されている生体顕微鏡で測定される白血球のローリングの比較をし、この方法の有効性の検討した。生体顕微鏡との比較は良好な関係が得られ、この方法はローリングの指標として十分であると考えられた。ヒスタミンで起こる白血球のローリングをこの方法で解析を加えた。その結果、ヒスタミンにより、約1時間をピークとするローリング反応が確認され、これはヒスタミンのH1とH2のレセプターを介した反応であることが確認された。またサイトカインによる白血球のローリング反応を調べた結果、1時間及び3時間をピークとする反応が確認され、この1時間のピークは主に接着分子のP-セレクチン、3時間のピークはP-セレクチンとE-セレクチンの両方の関与が示唆された。
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