研究概要 |
活性酸素は虚血ー再潅流障害や炎症による組織障害の原因物質あるいは増悪因子として考えられてきた。しかしながら、近年活性酸素が細胞内情報伝達物質として機能している可能性が示されつつある。一酸化窒素(NO)合成酵素は、通常ホルモンなどの刺激によりNOを遊離するが、補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)量が低下すると、NOではなく活性酸素を生成することが脳由来の酵素で示されている。本研究では、最初に血管内皮細胞のNO合成酵素においてもBH4量が低下すると活性酸素を生成するか否か検討し、次に活性酸素が血管内皮細胞の特徴的機能である血管新生に影響を及ぼすか否かについて検討した。ウシ大動脈由来内皮細胞にカルシウムイオノフォアを添加したところ活性酸素の遊離が認められ、この活性酸素の遊離はBH4合成経路の阻害剤処置により増加した。更に、NO合成酵素阻害剤はカルシウムイオノフォアによる活性酸素の遊離を抑制した。以上の結果は、血管内皮細胞のNO合成酵素においても補酵素であるBH4が低下すると活性酸素を生成することを示す。次に活性酸素種の一つである過酸化水素を内皮細胞に添加したところ血管新生の促進が認められた。また、過酸化水素による血管新生は転写因子ets-1のアンチセンスにより抑制されたことから、ets-1の関与が考えられた。ets-1はタイプIコラゲナーゼの発現を制御すると考えられている。これらのことから、過酸化水素による血管新生の促進にets-1を介したタイプIコラゲナーゼの発現が関与すると思われる。本研究において、BH4含量の低下に伴いNO合成酵素から遊離する活性酸素が血管新生に影響を及ぼすか否かについてBH4合成経路の阻害剤である2,4-diamino-6-hydroxyprimidine(DAHP)を用いて検討を進めたが、DAHPそれ自身に血管新生抑制作用があり、NO合成酵素との関連を明らかにすることができなかった。今後、選択的なBH4合成阻害薬を探索する必要がある。
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