腎移植患者100例、ネフローゼ症候群患者38例、乾癬患者51例、およびRA患者50例を対象に、治療前の末梢血リンパ球の免疫抑制剤感受性を調査した。また健常者も69例を検討し、患者のデータとの比較検討を行った。常法により末梢血から分離したリンパ球の各種免疫抑制剤感受性を、マイトゲン試験法により検討した。検査対象薬物は、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、シクロスポリン、タクロリムスあるいはメトトレキサートで、いずれも臨床で繁用されているか最近適応範囲が増えている薬剤である。リンパ球の薬剤感受性は患者毎に各々の薬剤のIC_<50>として算出し、患者間あるいは疾患群間でその差やばらつきを比較検討した。薬剤耐性の判断基準としては、約50例の健常者リンパ球より求めた特定の免疫抑制剤のIC_<50>の平均値+2SDを境界値とし、これを上回る場合をその免疫抑制剤に対して耐性とした。腎移植では急性拒絶反応や移植腎生着率、ネフローゼでは蛋白尿の増減、乾癬では皮疹改善率(PASIスコア)、RAでは炎症マーカーなどで示される免疫抑制剤の治療効果と、リンパ球の薬剤感受性との相関を調べた。薬剤感受性には大きな個体差が認められ、特に患者ではIC_<50>が境界値を上回る頻度が高く、またこの様な患者は免疫抑制剤による治療に抵抗性を示すことを確認した。即ち、治療前に求めたリンパ球の免疫抑制剤感受性は、薬剤の治療効果と相関することが、上記の疾患において示唆された。このように平成9年度は、各患者に対する至適免疫抑制剤選択に関する理論的根拠を、患者リンパ球を用いた薬力学から求めることができたものと考える。
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