細胞表層硫酸化多糖であるヘパラン硫酸(HS)がbFGF作用発現を制御する可能性に注目し、これを踏まえて本研究テーマである「血管新生の引き金となる初期因子の作用機構解明に基づく血管新生性疾患治療剤の開発」を推進した。bFGF等の血管新生促進因子の血管新生への関与を究明し、更に最小にして最大の効果を発揮しうる最適な硫酸化多糖の構造を明らかにして、血管新生阻害剤開発の手がかりを得ることが目的である。 鶏漿尿膜の系を用いて検討した結果、まず硫酸化度をあげると血管新生阻害活性を強くなることが明らかにすることができた。次に高分子の糖は吸収されにくいという報告があるため、低分子化して阻害活性がどうなるか調べたところ、デキストラン硫酸(DS)とヘパリン(Hep)を低分子化しても、その血管新生阻止能は保持されることが明らかになった。血管内皮細胞にヘパリチナーゼを前処理すると、bFGFの有する増殖およびPlasminogen activator促進作用が抑制されるという結果を得、間接的にではあるが、DS等硫酸化多糖の作用点が、HS結合性血管新生因子とHSとの結合阻止である可能性が示唆された。また、DSを多量のbFGFと共に予めincubateした後、血管新生阻止活性が変化するかどうかを検討し、硫酸化多糖の作用機序の更なる解明を試みた。DSとbFGFとの予めのincubationはその血管新生阻止効果を減弱する、ということを明らかにすることができた。またbFGFとの結合に重要と想定される位置に硫酸基が存在するか否かで血管新生阻害効果が変化するかどうかを、Hepを用いて詳しく検討した。その結果、6位を脱硫酸化し2位に硫酸基が存在すれば血管新生の阻害活性が高くなると言うわけではなく、脱硫酸化せずに2位にも6位にも硫酸基が存在し硫酸含量の高いHepが強い阻害活性を示すことが明らかになった。今回硫酸含量が全く同レベルではなかったため単純な比較が困難であったが、必ずしも細胞レベルやin vitroから推察される結果とは一致はしなかった。 本実験結果より、DS等硫酸化多糖の作用点が、HS結合性で血管新生の引き金となる初期因子とHSとの結合阻止であると考えられるので、2位と6位に硫酸基を持つ硫酸化オリゴ糖を合成し生体内での分解が遅くなる構造に修飾すれば、本研究の目標である易吸収性で強い血管新生阻害効果を発揮しうる治療剤開発の基盤がもたらされる。
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