本年度は昨年に引き続き、プロトン核磁気共鳴(^1HNMR)分光器を用いて、院内感染の起因菌として重要なメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の50菌株のNMRスペクトルの測定を行った。菌株によってシグナルの位置や形状は異なるが、0.5〜4.2ppmの範囲において約8〜9のシグナル群が認められた。これらのうちの6群を、前回と同様に高磁場よりAからF群に分類した。50菌株のシグナル群の位置-化学シフトの平均±標準偏差は、A群からF群まで、0.93±0.01、1.72±0.003、2.12±0.01、3.02±0.006、3.27±0.96、4.04±0.006であった。さらにC群を1としたA、B、D、E、F群のシグナルの高低比の平均±標準偏差は、0.45±0.17、1.63±0.27、0.33±0.2、1.89±0.96、1.11±0.19、積分強度比の平均±標準偏差は、それぞれ0.49±0.16、3.93±0.81、0.38±0.22、1.51±0.96、2.18±0.47であった。次に積分強度の測定量相互間の相関係数を求め、それらの値を多変量解析の1つである因子分析法で解析した。相関係数はすべて正であり、因子の現れ方からおおよそ3群に大別できると推定された。さらに50菌株のNMRスペクトルのシグナルBをピークの数とピーク間の距離を推定した結果、これらの値は菌株で一定であり、遺伝子型が近似していると考えられる菌株間ではこれらの値がきわめて近似していた。 本年度は分光器の故障があり、予定していたNMRスペクトルの分析方法の検討が十分でなかったのでこれに関しては来年度におこないたい。しかし本テーマに関連した院内感染の研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が超音波機器を介して患者間に広がっていく可能性をその対策を含めて報告できるなど実りのあるものであった。
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