本年度も昨年に引き続き、プロトン核磁気共鳴(^1H NMR)分光器を用いて測定した50菌株のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のNMRスペクトルの解析を行った。再現性の検討では50菌株のうち無作為に4菌株を選択し、それぞれ日を変えて5回培養を繰り返した上で、やはり日を変えてNMR分光器で測定をおこなった。4菌種のNMRスペクトルにおける各々のグループの積分強度の平均±標準偏差(分散係数%)はグループAでは0.53±0.02(3.77)、0.41±0.03(7.32)、0.42±0.02(4.76)、0.59±0.03(5.08)、グループBでは4.32±0.19(4.40)、3.95±0.21(5.32)、4.60±0.18(3.91)、3.69±0.24(6.50)、グループDでは0.30±0.02(6.67)、0.38±0.03(7.89)、0.26±0.01(3.85)、0.31±0.03(9.68)、グループEでは1.33±0.19(14.29)、0.42±0.14(33.3)、1.03±0.21(20.4)、0.82±0.23(28.05)、グループFでは2.43±0.13(5.35)、2.29±0.15(6.55)、1.90±0.09(4.74)、2.74±0.14(5.11)であった。グループE以外は10%以下の分散係数であり再現性は良好であると考えられるが、グループEは同じ菌株でもばらつきが大きく、このグループを構成する分子は培養や測定条件で変化すると考えられる。 また院内感染が疑われた2患者から採取されたMRSAのDNAのパターンとNMRスペクトルを比較した。SmaIで切断したDNAの泳動パターンは2菌株で一致し、NMRスペクトルも極めて類似しておりその相関係数は0.998であった。 再現性は良好であり、MRSAの菌株間の差異は同じ菌株間より大きいため菌株の同定にもNMRが有用な手段になりうる可能性がある。さらにDNAパターンが同じ菌株ではNMRスペクトルの相関係数も高く、今後NMR以外の菌株同定法との比較も興味がもたれる。
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