まず菌種間の核磁気共鳴(NMR)スペクトルの相違を検討するために、プロトン核磁気共鳴(^1HNMR)分光器を用いて大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎桿菌のNMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルは化学シフト、強度、積分強度で検討を行った。菌体や菌膜に含まれる構成成分の質や量の違いにより大腸菌、黄色ブドウ球菌や緑膿菌は特徴的なNMRスペクトルを示したが、肺炎桿菌は特徴的なパターンに乏しかった。我々は細菌の構成成分の分離をせず菌体全体を測定したが、菌種間で異なるNMRスペクトルをわずか40分で得ることが可能であった。さらに^1HNMRスペクトルの再現性と菌株間の相違の有無について検討を行った。院内感染の原因菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のNMRスペクトルにおいて0.5から4.5ppmの間で明らかな6のシグナルおよびそのグループがみられ、それらをA〜Fとした。再現性はグループEをのぞいて積分強度の分散計数10%以下であり、超音波による菌体の破砕や4ヵ月の長期保存前後でもNMRスペクトルに変化はなく、満足できると考えられた。グループEを構成する分子は培養や測定条件で変化すると推測される。次に臨床検体より得られたMRSA50菌株のNMRスペクトルを測定した。菌株間のNMRスペクトルの差異は菌体構成成分の量によると考えられた。積分強化の測定量相互の相関係数を多変量解析である因子分析法で解析した結果、2因子で決定されその現れ方からおよそ50菌株は3群の分けられた。さらにDNAパターンの一致した2菌株のNMRスペクトルは類似しておりその相関係数は0.998であった。以上のように未だ検討菌種や菌株数は少ないが、菌体全体を用いた^1HNMRによる分析は代謝や構成成分の分析のみならず、菌種や菌株の同定にも有用であると考えられる。
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