糖鎖性の腫瘍マーカーのうち、l型基幹糖鎖グループの代表であるCAl9-9(シアリルLe^a)と2型基幹糖鎖グループに分類されるシアリルSSEA-1(シアリルLe^x、SLX)は、血管内皮細胞に存在する細胞接着蛋白質セレクチンのりガンドであり、癌の血行性転移を促進する。我々は、昨年大腸癌のフコシルおよびシアリルトランスフェラーゼを検索して、フコシルトランスフェラーゼについては、Fuc-TIVががん組織で有意に増加していること、シアリルトランスフェラーゼについては、とくにST30分子種のmRNAが、癌で有意に増加していることを見いだしたが、今年度はそれに加えて、シアリルトランスフェラーゼのうちST3Gal IIも有意に増加していることを見出した。ただし、ST30については統計的にp<0.0001であるのに対して、ST3Gal IIについてはp<0.001であり、ST30分子種mRNAの増加の方が著明であった。また、従来から乳癌の腫瘍マーカーとして用いられてきたNCC-ST-439において検出されている糖鎖が、特殊なムチンコアGlcNAcβ′l→6GalNAc α上のシアリルLe^xであることを見出し、これもセレクチンに対する接着活性を持つ生理活性糖鎖であることを報告した。さらに、大腸組織にはGlcNAcβの6位が硫酸化されたシアリル6-スルホLe^xが存在することを見出した。特異的単クローン抗体を作成して検索したところ、シアリル6-スルホLe^xが癌においては非癌組織よりも有意に減少することが判明した。このことは、癌化にともなってGlcNAcβの6位の硫酸化が低下することを示唆している。これに対して3-スルホLe^xや3-スルホLe^aは、特異抗体による検索の結果、癌部と非癌部での分布に有意差がないことが判明した。このことは、硫酸化一般が癌化によって低下するのではないことを示唆しており、GlcNACβの6位の硫酸化の低下が特異的な現象であることを示す。癌化に伴って低下する6-スルホトランスフェラーゼのクローニングが今後必要であると考えられる。
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