本研究では高齢期の大腿骨頸部骨折における有効な退院指導指針を得ることを目的に、療養型病床を有する病院に入院中または退院した高齢の大腿骨頸部骨折患者と慢性的な障害を有する非骨折患者の2群で、視機能を測定し、生活要因との関連を検討した。対象は大腿骨頸部骨折患者と非骨折患者それぞれ39ペア78名。調査内容は視機能、体格・体力測定、生活要因、既往歴、転倒・骨折歴、ADL・IADLの各要因について行った。視機能はコントラスト感度と立体視機能をVCTSと多目的両眼視機スクリーナーを用いた。また、対象者の骨折後の骨代謝の状態とその後の変化を把握するために、骨代謝指標として尿中Hydroxyprolineを測定した。 その結果、コントラスト感度は、骨折患者は非骨折患者に比較して1.5cycle/degreeと3cycle/degreeの低周波数領域と18cycle/degreeの高周波数領域とも低下しており、特に低周波数で有意であり、(p<0.05)、骨折患者の方が見えにくくなっている状況が伺えた。また、生活因子別にみた骨折患者と非骨折患者の比較では、「夕方や夜間は物がみえにくくなる」という項目2群に差はなかったが、両群とも約30〜40%の者にその傾向があった。老研式活動能力指標では手段的活動能力得点が、骨折患者が非骨折患者に比べて有意に低い傾向であった(p<0.05)。転倒割合は、骨折群が非骨折群に比べて多かった(p<0.1)。眼科疾患既往を有する者は、骨折群より非骨折群に多かった(p<0.1)が、白内障を有する者は両群とも半数みられた。また、遠近感がなくなったと回答した者は骨折群に多い傾向であった。これらより、従来の転倒予防のための退院指導内容に加えて視機能低下者に対する事項を加える必要性が示唆されたので、具体的に指導内容を提示した。
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