本研究はハイテク在宅ケアにおける自立支援型ケアスキルの有効性に関する実証が目的である。現在、わが国の頚髄損傷による器械呼吸長期依存者(VD頚損と略)は在宅移行後も入院中の生命維持を目標に開発されたケアスキルの受給が大半である。それゆえ在宅者の大半が終日ベッド上で過ごし、かつ全要介護生活である。その人々にカナダBC州で開発された自立支援型呼吸ケアの介入研究を実施した。本年度はとくに在宅における呼吸発声訓練の成果と器械呼吸の安全性との関係の分析を主な研究目的とした。対象は、昨年度から継続のVD頚損8人に本年度開始の3例が加わり、計11例である。いずれも家族を通じて在宅ケアの相談を受けた事例である。うち入院継続者は3人、在宅が8人となり、数回の訪問面接および電話、電子メールなどでデータを収集した。なお、自力呼吸訓練はパルスオキシメータをモニターとして呼吸筋及び呼吸補助筋強化を目的とした短時間器械呼吸の離脱を反復する方法、発声訓練は気管カニューレのカフをディフレイト後、器械呼吸のリズムに合わせた音読による長く声を出す方法である。その結果、1)自力呼吸困難と診断され、器械呼吸に全面依存状態であったVD頚損が計画的な訓練によって最低数分以上、自力で呼吸できるようになった。その成果は在宅者よりも入院中の方がより顕著な成果を示し、在宅での継続訓練の困難さが顕在化した。2)本方法による発声は1例を除き可能であった。本方法で不可能な1例はPMスピーキングバルブの使用によって長時間会話が可能になった。しかし他の事例から長時間の会話には、気管カニューレ・サイズの縮小、器械呼吸の設定値、とくに1回換気量の増大、カフなし気管カニューレの導入に加えて、VD頚損者の音声会話に対するニードが重要な必要条件と明らかにされた。
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