研究概要 |
口腔微生物,殊に細菌は.歯科的疾患(う歯,歯周疾患),口腔内感染症とともに嚥下性肺炎の原因になるとされている。生体感染防御機構の低下,痴呆,運動障害,嚥下障害などがあるために自分自身で歯磨き、うがいなどの口腔内ケアを十分に実施できない患者に,上記疾患を予防するための効果的な看護ケアの方法を基礎的に検討することが本研究の目的である。本年度は以下の研究を行なった。 1. 脳血管障害患者のADL、特に経口摂取の有無と口腔内細菌数の関係: リハビリテーションを目的とした療養型病床群に入院中の患者40名を、ADLと口腔ケアの内容によって4群に分け、早朝起床時の口腔内細菌数を経時的に調べた。I群は自立し食餌の経口摂取、歯磨きともに自分でしていた。II群は寝たきりであるが、食餌は介助者の助けで経口摂取し、介助者による口腔清拭を受けていた。III群は寝たきりで経鼻経管栄養を受けており、介助者による口腔清拭を受けていた。IV群は自立しているが総義歯であった。調査の結果,III群は他群に比べブドウ球菌数,カンジダ数が有意に多く検出された。また緑膿菌はIII群からのみ検出された。ADLが低く経口摂取しない患者は口腔内細菌数が増殖しやすいことが明らかになった。特にこれらの患者に対する口腔ケアの必要性が示唆された。 2. 嚥下障害患者に対する口腔ケアの検討: 嚥下障害がある患者に起こりやすい嚥下性肺炎の発症を予防する方法として給吸ブラシによる口腔ケアを検討した。給吸ブラシ910(ライオン社製)は電動ブラシに給水吸引機能が装備されている口腔ケア器具である。この給吸ブラシによる口腔ケアを,脳梗塞のために嚥下障害があり,経鼻経管栄養を受けている1症例と、食餌を経口的に摂取中の1症例を対象とし,3ヶ月間就寝前に実施し,その効果を口腔内所見の変化,呼吸器感染症の発生状況,細菌学的検査およびADLへの影響から検索した。給吸ブラシにより歯牙の清掃と咽頭部および舌背のケアを介助者が一人で同時に行うことが可能であった。給水しながら吸引するために,誤嚥の心配がなく,患者自身がむせないためブラッシングに対する不安や苦痛が軽減されブラッシングに協力的になり,患者が自分でブラッシングすることができ,ADLの向上になった。さらに歯肉の発赤や腫脹,出血が軽減し,総細菌数,ブドウ球菌,カンジダ数も減少したが,緑膿菌は減少を示さなかった。今後は症例数を増し、洗浄剤の影響等についても検討していく必要があると考えられた。
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