1.対象の属性:研究対象は、都内の総合病院の神経内科に入院する平均年齢75.5歳の患者7名(女性4名、男性3名)と、これらの高齢患者に関わった平均年齢28.3歳の看護婦20名であった。2.患者の言動パターンと看護婦の認識過程:認知障害や言語障害のある患者との日常生活援助の関わりで、患者の視線、表情、動作の変化を手がかりに患者を理解しようとする看護婦の認識過程には5つの側面があった。(1)指示への患者の反応を理解する過程:看護婦の指示に対する患者の反応を見ることで、患者の認知、身体機能のレベルを理解しようとする過程である。患者が指示に反応できたときには誉め、反応できなかった時にはできない部分を援助していた。(2)患者の苦痛を理解する過程:患者に痛みや気分を確認したり、患者の動作等から苦痛を推察する過程である。この過程では患者から明確な訴えを得られることは少なかった。(3)患者の意志を理解する過程;患者の意志を、表情、言葉、動作等から推察しようとする過程である。この過程では、患者の意志を尊重し、それに基づいて援助を行いたいとする反面、患者の意志が危険行動や医療行為への拒否につながる場合は、患者の行動を止める必要があることもあった。(4)患者の内的世界の理解する過程;突然患者が現実とは明らかに異なる話を始め、その話から患者が何を言いたいのかを確認することにより、患者の内的世界を再構成しようとする過程である。しかし。この過程では患者の内的世界を理解するまでには至らず、患者の一方的な会話で終わることが多かった。(5)患者の新たなる発見の過程:今までの患者からは表現されなかった言動が突然見られ、看護婦に驚きと喜びがわき上がる過程である。看護婦自身、患者が何を思い、どうしたいのかを明確に把握できない「不確かな思い」で患者と関わる中で、患者の自発的な言動は「確実な快復の証」として看護婦の目の前に提示され、一層大きな発見の喜びにつながっていた。
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