研究課題
本年度は研究計画に挙げた胎児治療を受けた対象についての心理過程の研究を行った.内容は以下である。出生前診断で「プルンベリー症候群の疑い」と告知され、妊娠17週に膀胱ー羊水腔シャント術を選択し胎児治療を受け、出産した妊婦の悲嘆の過程を理解する目的で、胎児異常を告知されてから出産1ヶ月後に至るまでを振り返り面接を行った。方法は(1)胎児異常の告知後(2)胎児治療後(3)出産直後(4)出産1ヶ月後の(1)〜(4)の各時点における悲嘆反応について自己記入法による調査を行った。悲嘆反応の質問内容は、Hallらの研究を参考にした次の21項目である.(1)児の空想、(2)不安な気持ち、(3)罪悪感、(4)感情が不安定、(5)悲しみ、(6)気持ちの蘇り、(7)次回の妊娠が考えられない、(3)悪夢、(9)腹痛(穿刺など処置によるもの)の蘇り、(10)頭痛、(11)処置時の場面の蘇り、(12)気分の落ち込み、(13)不信感、(14)満たされない気持ち、(15)怒り、(16)非難、(17)否認、(18)無力感、(19)絶望感(ショック)、(20)恥、21失望感である.各項目を「常にある」「よくある」「ときどきある」「あまりない」「全くない」の5段階で質問し、次の結果を得た.(1)胎児異常の告知を受けてから出産1ヶ月後に至るまで最も高い得点を示した悲嘆反応は“児の空想"であった.(2)胎児異常告知後だけに高く、胎児治療後から低くなった悲嘆反応は“悪夢"であった.(3)胎児治療後のときだけ高かった悲嘆反応は“罪悪感"であったが、一時的なものであった.(4)妊娠中に比べ出産した後に低くなった悲嘆反応は“不安な気持ち"“次回の妊娠が考えられない"“腹痛の蘇り"“否認"の4つであった.逆に、出産した後より妊娠中に低かった悲嘆反応はなかった.今回の妊婦の場合は、出産後の悲嘆反応の軽減に胎児治療が心理的安定に影響したことが考えられた。なお、現在も継続研究中である.
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