研究概要 |
本年度は研究計画に挙げた胎児異常の告知を受けた対象についての心理過程の研究を行った。内容は以下である。 出生前診断により胎児異常の告知を受けた母親の心理状態を理解する目的で,胎児異常について告知を受けた妊婦のうち調査の同意が得られた20名を対象に,一般的な感情体験,および病的な悲嘆反応について面接調査した。胎児異常の告知を受けたときの一般的な感情体験で最も多い反応は,「悲しみ」と「不安な気持ち」であり,『常にある』『よくある』がともに55%と過半数にみられた。また,胎児異常の告知を受けたときの病的な悲嘆反応で最も多かったのは,「児の空想」で、『常にある』『よくある』が65%であった。また,職業をもった人の方がもっていない人より「児の空想」がみられる傾向(p<0.1)があり,職業をもった人の方がもっていない人より有意に(p<0.05)「感情が不安定」である人が多かった。これらの反応を得点化してみると,子どもがいない場合の方がいる場合より有意に(p<0.01,p<0.01)一般的感情体験得点および病的悲嘆反応得点が高く,また,職業をもっている場合の方がもっていない場合より有意に(p<0.05)病的悲嘆反応得点が高かった。以上より,胎児異常の告知を受けた母親は一般的な感情体験や病的な悲嘆反応がみられることがわかった。また,それらの反応は子どもの有無や職業の有無に影響されることが示唆された。 なお、胎児治療を受けて出産した妊婦の心理過程の変化や胎児治療を受けたが児が亡くなった妊婦の心理過程の変化について分析中である。さらに、正常妊娠経過の妊婦と胎児異常と告知された妊婦の家事など日常生活状況について比較検討中である。また、胎児治療についての社会的コンセンサスを調査する目的で、紙面調査を続行している。
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