研究概要 |
前年度,高齢者の加齢に伴う視覚機能の衰えと空間評価の軸形成との関連を検討した結果,コントラスト閾値の上昇が日常的活動度と関連すること,さらに空間評価との関連では空間の広さ軸形成がコントラスト感度と関連することが示唆された。コントラスト閾値の上昇は,高齢者の視機能における中枢部の老化との関連が示唆されていることから,前年度の研究知見に基づき,本申請では,視機能の老化としてコントラスト閾値の上昇に着目し,高齢者の日常的活動度との関連および空間評価における広さ軸形成との関連をより明確に捉えることを目的とした。 空間評価の対象は前年度同様に歩道空間とし,面接法による写真エレメントの分類による心理実験を試みた。同時に,コントラスト感度測定、従来の視力検査,片足立ちバランスの測定,日常的活動度調査,および歩数調査を行い,さらに生活状況全般に関する聞き取り調査を実施した。被験者は70歳以上の男性16名,女性28名の計44名である。心理実験のデータは多次元尺度法(MDS)によって個人別に評価軸を抽出し,軸ウェイトに基づく考察を行った。分析の結果得られた知見は以下に要約される。 1.コントラスト感度と歩数調査との関連分析では,歩数が多く活動度の高い被験者ほどSPATIAL FREQUENCY Cにおける感度の落ち込みが小さいことが明らかになった。 2.日常的活動度としての歩数が,コントラスト感度におけるSPATIAL FREQUENCY Cの低下をもたらす境界値は,3000歩/3日間(平均1000歩/日)であると考えられ,10000歩/3日間(平均3300歩/日)では,その差がより顕著であった。 3.3日間の歩数が10000歩以上の被験者は,「歩道幅の広さ」を評価軸とする傾向が明らかに認められた。
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