高齢者による歩道空間評価の特性を明らかにすべく、高齢者の歩道空間評価における軸の形成要因として加齢に伴うコントラスト感度の閾値の上昇に着目し、活動性とのかかわりにおいて評価軸の形成との関連を捉えることを目的とした。写真エレメントの多重分類に基づく心理実験、および視力測定・コントラスト感度測定・片足立ちバランスの測定・日常的活動度に関する聞き取り調査・10項目の日常生活活動度調査・歩数調査を実施し、被験者の評価軸抽出とあわせて関連分析を試みた。被験者は盛岡市在住の70歳以上の高齢者44名(男性16名、女性28名)である。得られた分析結果は以下に要約される。 (1) コントラスト感度は空間周波数(SPATIAL FREQUENCY)Bにおいて最も高く、日常的活動度が低い高齢者の場合には、C以降の急激な低下が著しいことを再確認できた。(平成8年度科研研究の結果の確認) (2) 日常的活動度の指標として、片足立ちバランス、歩数、活動度評価の3つの指標を用いたが、コントラスト感度との関連を考察するにあたっては、歩数が最も適した指標であると言える。 (3) 日常的活動度がコントラスト感度における空間周波数(SPATIAL FREQUENCY)Cの低下をもたらす境界値として、第一次境界値(3日間3000歩)と第二次境界値(3日間10000歩)を特定でき、第二次境界値(3日間10000歩=平均約3300歩/日)が「歩道幅の広さ」の評価軸形成にかかわっていることが明らかになった。 (4) コントラスト閾値の高低すなわち活動度の高低に関係なく全ての高齢者が、誘導ブロックなど歩道空間における視覚障害者への建築的配慮を受け入れるための前提条件は「歩道幅の広さ」を保障することである。 (5) 高齢者の視覚におけるコントラスト感度の閾値上昇は、潜在的な活動空間の狭窄を伴うと推察される。
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