本研究は幼稚園において2年間に渡る縦断的観察研究を行い、個々の子どもの視点から幼稚園における人間関係の個人史の様相を明らかにすることを目的とする。このため平成9年度には幼稚園の4歳児クラスを新入園時から観察した。学期に数回観察を行い、ビデオとフィールドノートにより記録を行った。また各観察終了後及び学期に1日、保育者との話合いを行い、保育者からみた個々の子どもの人間関係の変化と介入の意図の聞き取りを行った。またビデオ資料を文字化した。こうした資料から、各子どもの園における主な遊びとその変化を検討した。さらに各個人の園生活でのキーパーソンともいえる人物(他の子どもや保育者など)を特定し、こうした人たちとの間の重要なエピソードを分析した。また各子どもにとっての園生活における「事件」ともいえるような重要な出来事を同定し、その出来事が起こるに至った経緯、出来事自体の様相、その影響等について分析を行った。さらに各子どもに保育者がどの様に関わり、人間関係の体験を援助しているかも検討した。分析の結果にもとづき、人間関係の個人史を数名の子どもについて再構築中である。また、一見同じ様な遊びをしているようでもその内容は変化していること、こうした変化はその子どもの人間関係での変容に密接に関連していること、キーパーソンとの関わりが変容のきっかけになっているらしいこと等が示唆されている。また分析の過程で、遊び内容以外にも、自身のいざこざの解決方法や他児のいざこざへの対処、仲間入りの仕方、昼食での他児との関わり等のいくつかの相互作用場面における子どもの行動の変化に注目することで、人間関係の変容が捉えやすいことが明らかになった。来年度はこうした点にも注目して分析を進める。本年度の成果の一部は家政学会・保育学会・発達心理学会・子ども社会学会で順次発表する予定である。
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