平成9年度に染色した試料に加えて繊維としてビスコースレーヨン、プロミックス、染料として蘇芳、紫根、刈安、コチニール、ほうじ茶、オレンジ、Dispersol Fast Rubine BTを用い、電子レンジ(出力500W、周波数2450MHz)加熱による染色と従来の浸染一般染法の二通りの方法で染色して、染色布のLab系を色差計(ミノルタ(株)、CR-200Y)により測定し、平成9年度の染色結果と併せて電子レンジ加熱による染色の効果を検討した。繊維と染料のほとんどの組合せで電子レンジ加熱による染色布の方が濃い色と高い彩度を示した。電子レンジ加熱の効果があったのは、染料については、赤色みの強いもの、天然染料よりも合成染料、特に分散染料であり、高周波照射中に染料水溶液の温度が高く上昇し(108〜116℃)、極大吸収波長の長い染料であった。繊維については、結晶化度、誘電率、熱的性質が要因となると推測される。染色物の耐光堅牢度はいずれの染色方法も差がなかったが、洗濯堅牢度は電子レンジ加熱による染色の方が優れていた。綿と麻以外のヤング率はいずれの染色方法もほぼ同程度の値になり、本実験条件下では電子レンジ加熱による織糸の引張強度の低下はほとんどないといえる。電子レンジ加熱による染色の教材としての条件について染料として苺、西瓜、玉葱を用いて染色した結果と上記に述べた結果を併せて検討したところ、染料は赤色系統のもの、繊維は天然染料では動植物繊維、再生繊維、ナイロン、合成染料では合成繊維が適し、染色時間は約3分間、浴比は1:50〜1:80が適することが分かった。 繊維のモデル粒子を用いて電子レンジ加熱による染色を試みたが、噴き上げて不可能であった。今後はこの問題解決に努めたうえで、繊維のモデル粒子及び試験布を用いて電子レンジ加熱を利用した染色に関する吸着等温線を分光学的な方法により求め、電子レンジ加熱による染色機構をさらに検討したいと考えている。
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