抹茶は、5月に製造された新茶(碾茶)を半年以上低温下で熟成保存させ、それを茶臼で微細紛にしたものである。保存しない新茶(碾茶)を用いて製造した抹茶は、抹茶特有の香り、こく味などの風味に欠け、泡立ち性も劣ることが製茶業者では知られている。この研究は、「抹茶特有の風味が生じるためには、なぜ碾茶を熟成保存する必要があるのか」について明らかにすることを主目的とし、以下の結果が得られた。 抹茶の官能評価では、碾茶を含気包装で6ヶ月間保存して調製した抹茶は、保存しない碾茶から調製した抹茶より、うま味・甘味があり、渋味・苦味が抑えられ、まろやか感があると判断された。また、窒素充填包装保存よりも含気包装保存の方が、抹茶らしい風味があると判断された。渋味・苦味成分であるカテキン類の抹茶溶出液中の量は、保存期間が長くなるにつれて僅かに減少した。苦味成分のカフェイン、うま味・甘味成分の遊離アミノ酸、甘味成分の遊離糖の各溶出量は保存期間中ほぼ一定であった。抹茶の泡立ち性は含気保存6ヶ月の抹茶が最も泡立ち性が良く、次いで窒素充填保存6ヶ月の抹茶、保存0ヶ月の抹茶の順であった。以上の結果より、碾茶を保存した抹茶の方が抹茶らしい風味であって、総合的においしいと評価が得られたのは、泡立ち性の向上がその一因であると推察した。 碾茶を5℃、6ヶ月間保存しても、抹茶中の総ビタミンC及びアスコルビン酸の残存率は80%以上で高かった。クロロフィル及びクロロフィル誘導体含量、クロロフィラーゼ活性も変化がなかた。以上のことから、抹茶の風味生成のための碾茶保存条件では、茶葉の品質は劣化しないことが確認された。 また、カテキン類、カフェイン、ペクチンは茶葉採取時期による抹茶の風味の違いに大きく寄与していないことが認められた。
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