小魚の調理でその骨をカルシウム源に利用しようとするとき、食酢に漬ける方法、長時間加熱する方法がある。これらの方法で調理したときの軟化の機構を解明しようとした。 マアジを試料とし、アジのマリネ、煮魚において、魚骨が軟化することを官能検査で確かめた。マリネから脊椎骨を取りだし、硬さをレオメーターの破断強度で測定すると、浸漬中に徐々に低下して7日後には元の硬さの20%程度に低下した。これは生魚の骨を4%酢酸液に浸漬しても同様の結果であった。マリネ浸漬中には骨からカルシウムの大部分が溶出し、生の骨を4%酢酸液に浸漬すると更に多くのカルシウムが溶出した。タンパク質の溶出はほとんどなかった。長時間水中で加熱して骨を軟化させた場合には、常圧2時間の加熱で、アジの骨の破断強度はもとの30%以下になった。しかし、骨からカルシウムはほとんど溶出せず、タンパク質は2時間後に約25%が溶出した。この溶出したタンパク質の大部分はコラーゲンの分解物であった。薄い酢酸液中で魚骨を加熱すると硬さはさらに低下し、骨からタンパク質もカルシウムも溶出していた。加圧加熱ではこれらの現象が短時間に生じた。光学顕微鏡による組織の観察で、酸性液に浸漬すると皮質骨マトリックスおよび内部の海綿骨では、小腔が生じていた。酸液中で加熱した骨では海綿骨にさらに小腔ができており、無機質が溶出したことを示した。水中加熱した骨では海綿骨及び皮質骨からコラーゲンが溶出しており、組織が粗くなっているのが観察された。走査型電子顕微鏡による観察では、酸に浸漬した骨の表面は繊維状が崩れ、不定形に膨潤したコラーゲンが表面を覆い、酸液中で加熱した骨の表面は粗くなり、コラーゲン束が露出していた。酸による軟化と長時間加熱の軟化では、溶質する成分が異なった。いずれにしても骨中のタンパク質と無機質成分の解離が骨の軟化と関連していた。
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