本年度の研究の目的は、高齢者を対象に、現在居住している住宅及び住生活の中での台所の位置づけを明らかにすることである。 この目的にそってアンケート調査およびヒアリング調査(台所の図面および生活財採取を含む)を実施し、高齢者が現在使用している台所の実態をふまえ、台所に対する評価、台所とかかわりの深い食生活の一部との関係について分析をおこなった。調査対象は独立住宅、集合住宅居住者であるが、集合住宅居住者の調査協力者数が限られたため、独立住宅居住者についてのみ(71件)分析することとした。なお同時に台所設備・機器と調理作業の実態を中心にアンケート・ヒアリング調査を都内にある高齢者センター利用者に対しても実施した(50件)。 なお分析にあたって本研究では、調査対象とした高齢者(65才以上)を現在持病として持っている疾患(内科、整形外科疾患など)あるいは心身機能(身体的機能、精神的機能、感覚機能など)を基にグループ分けを試みた。その結果の一部をまとめると以下のようになる。今回の調査対象高齢者の場合、必ずしも高齢者であることを配慮して計画された台所を使用しているとは言えない。しかし約6割弱の高齢者が台所全体に対し満足であると評価しているのが実状である。さらにこれを前述の健康度グループとの関連からとらえると、グループにより台所に対する評価や考え方はかなり異なる。例えば持病があり特に内科、整形外科、眼科疾患の内2つ以上の疾患を有する高齢者(健康度の低いグループ)に台所に対する不満をあげるものが多い、また安全装置に対する意識は全体的に低いが、台所での事故経験率は持病がなく健康な高齢者(健康度の高いグループ)に多いなどに示される。そのほか台所設備・機器などの所有、使用率は、持病の有無や心身機能の状態により影響を受ける(ものにより違いはあるが)など、実際の台所(台所設計)と実生活(使用)との間に生じている矛盾点、問題点を一部明らかにすることができた。
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