1980年に台所に関する種々の調査および実験などをおこない、その当時の生活実態に即した研究をまとめ、その時代に対応した台所計画への一指標を提示した。しかし近年、私達をとりまく社会および経済状況は、大きく変化した。それは住生活においても同様である。特に食生活・家族生活の変容は、台所の形態あるいは台所に関する考え方にも、大きな変化をもたらしていると思われる。そこでこれら生活の変容をふまえた総合的な台所計画の指標を見直し、時代に即した新たな台所計画の標準化を提示することが本研究の目的である。なお本研究は、2つの側面からの研究で構成されている。 まず一般住宅の台所計画にとって、重要な一指標となる収納空間の標準化を目的とした研究では、食器、調理器具、調味料、貯蔵食品などの所有実態、使用実態、入手方法などについて1987年時と1997年時の実態調査による結果から、前回の調査ではものが増加する傾向にあったのに対し、今回はかなり減少傾向にあることが明らかになった。そこで懇意値の時代に適応した標準所有品目と所有数を前回と同様決定し、必要総収納容積を算定した結果、1987年時提案した容積が適正であることが判明した。 次に高齢者が現在使用している台所の実態をとらえ、台所設計と実生活との矛盾点及び問題点を明らかにすることを目的とした研究では、65才以上の対象とした高齢者が使用している台所は、必ずしも高齢者に対応したものではない。しかし高齢者の多くは台所の現状に満足を示している。しかし安全性の上からみても(台所での事故発生率も含め)、問題をかかえた台所が、一部ではあるが使用されているのも実状であるが、その安全性に対する意識は総じて低い。そのほか高齢者の健康度により台所に対する評価は異なり、実際の台所(設計)と実生活(使用)の間に問題が生じていることを一部明らかにした。
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