冷暖房の急速な普及は、快適な人工環境を拡大した。しかしながら、このような環境に長年に渡って曝されると、体温調節能力が衰えて、温度変化にきわめて弱い人間が出来るのではないかと危惧される。本研究の目的は冷房の普及が児童の体温調節機能の発達に及ぼす影響を環境人間工学の観点から明らかにすることである。 実験は隣接する2つの人工気候室を利用し、一方を前室(気温28℃)、もう一方を高温室(気温30℃、相対湿度70%)とし、暑熱負荷条件は42゚Cの下腿温浴を40分間とした。被験者には健康な7〜10歳の男子15名女子14名、計29名を用いた。被験者は前室に30分間以上滞在し、汗が引いたのを確認した後、30℃の高温室で60分間椅座位安静の姿勢をとった。高温室入室20分目からは、42℃のお湯に両下腿を温浴させ、実験中はビデオを鑑賞させた。実験により得られたデータは、暑さ寒さに関するアンケート・被験者の身体的特徴に基づき、幼児期のクーラーの使用別・運動習慣別・性別・年齢別・体重別の5つの項目内で2グループに分け、対応のないt検定およびX^2検定を行い、それぞれの平均値を比較した。 クーラー使用群では足浴開始後の直腸温の変化量が有意に高い値を示した。平均皮膚温・前腕皮膚温・血流量の経時変化も一貫して使用群の方が高い傾向が見られた。クーラー使用群は皮膚血管拡張による体温調節に負っているところが大きいことが示唆された。しかしながら、発汗機能に関してはどの測定項目にも有意差が得られなかった。生育環境が能動汗腺数を決定するということに着目すると、クーラーの使用による体温調節機能への顕著な影響は見られなかった。
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