本研究では、近代初頭のイエズス会士たち、とりわけローマ学院に所属していたクリストファ・クラヴィウス、クリストファ・グリーンベルガーたちが、この当時にガリレオ・ガリレイによってなされた天文学上の発見をどのように評価したか、彼らの下した解釈が伝統的な宇宙観とどのような関係があったかについてについて論じた。 従来の通説では、イエズス会士たちを含む保守的な自然哲学者たちはガリレオの天文学上の発見を認めようとせず、聖書とアリストテレスの教えを墨守していたとされていた。しかし、近代初頭のイエズス会士たちに関する限り、彼らはもはやアリストテレスとプトレマイオスの宇宙観を信じていず、ティコ・ブラーエの宇宙観を採用していたということを明らかとした。また、ガリレオによる望遠鏡の製作・改良とそれを用いた天文観測の時間的な経緯、同じ時期に交わされたイエズス会士たちの書簡を精査した結果、彼らが当初ガリレオの発見を否定したのは、アリストテレスを中心とする伝統的な宇宙観とは無関係であり、彼らの所有する望遠鏡の性能の悪さのためであったことが明らかとなった。 つまり、1611年の秋に彼らもまた高性能の望遠鏡を手に入れ、木星の衛星を観測したあとでは、ためらうことなくガリレオの発見を認め、彼を称賛さえしたのである。また、その後のガリレオによる金星の満ち欠けの発見については、彼らの望遠鏡では見ることができなかったにもかかわらず、もはや疑うことはなかった。 これらの事実から、少なくともこの時期のイエズス会士たちに関する限り、ガリレオによる天文学上の諸発見についての彼らの解釈には、アリストテレスの学説や聖書の教えが介入する余地はなかったと結論してよい。
|