研究概要 |
今年度は,近代物理学の父といわれるガリレオ・ガリレイの数学的運動論における基本的物理概念について検討を行なった.『新科学論議』や『運動論』といった重要な著作の本文をデータベース化して,「モメントゥム」や「インペトゥス」,「速さの度合」といったキ-・タ-ムに関する分析を進め,彼が数学的運動論というまったく新しい科学を構築していった過程において抱えていた問題を,彼が用いていた基本概念の変遷という側面から解明しようと試みた. 具体的には,『新科学論議』における運動論の中でも,斜面の実験で知られる斜面上の下降運動に着目し,この問題に関する一連の命題の出発点となっている「斜面運動の原理」の理論的基盤に関するガリレオの見解の時間的展開を追跡した.この研究の中で,ガリレオが静力学の諸概念を用いて自然落下運動という動力学的問題へのアプローチを試みたことから,「モメントゥム」といった彼の運動論を支える概念には意味上の混乱があったことが判明した.この混乱のおかげでガリレオは加速運動という現象を数学的に扱うことができたのだったが,また同時に加速の発生のメカニズムに関して大きな問題を抱えることになったのでもある. 運動における加速発生のメカニズムという問題に対して明確な解答を与えたのは,ニュートンの『プリンキピア』で提示された運動法則であるが,それ以前にも,彼が弟子であるトリチェッリ,またホイヘンスによってこの問題は論じられている.次年度は両者における加速運動の理論を検討する予定である.
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