近年の運動学習研究では、認知心理学の理論を基にした練習スケジュールと学習効率との関連に関する研究が盛んに行われている。そこでは、認知理論から導き出された練習スケジュールに関する仮説を実験的に検証するという、理論依存型の研究が中心となっている。このことは逆に、学習者の個人的状況との関連で学習現象を捉えるという、もう一方の重要な視点での研究努力が十分には行われていないという結果も引き起こしている。 本研究では、学習者の学習行動の観察を中心に据え、それとの関連で運動学習という現象を捉えることを大きな目的としている。本年行った研究は、運動学習における学習者のKR利用方略を調べ、認知心理学の理論から導き出された効果的KRスケジュールと比較することである。 最近のKRスケジュールに関する研究によると、毎試行度にKRを提供するより、間欠的に与えた方が学習は促進されることがわかっている。これは、効果的な学習のためにはできるだけ毎回KRを提供すべきであるとする従来の考え方の反する現象である。今回調べたのは、KRの利用の仕方をすべて学習者の判断に任せた場合、学習者はどのようなKR利用方略を採用するのかを明らかにすることである。 KR利用方略には、当然学習課題の難易度が影響すると考えられる。そこで本研究では難易度の異なる2つの運動学習課題を設定し、それぞれについてのKR利用方略を調べた。その結果、難易度にかかわらず、学習者は「悉皆利用方略」を選択することがわかった。また、実験者側が設定した「間欠的KR条件」と比較すると、従来報告されているように、学習者が選択した「悉皆利用方略」は「間欠的KR条件」と比べ練習パフォーマンスでは差がなく、テストパフォーマンスでは劣るという、きわめて興味深い結果が得られた。
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