本研究では、体育・スポーツ場面において、高い競技パフォーマンスを達成する上で重要な要因となっている能動的注意能力を、呼吸、心拍、事象関連脳電位などの精神生理学的指標を用いて、至適注意力とそのメカニズムについて明らかにすることを目的とした。昨年度までの注意能力に関する文献学的検討と基礎的な実験に加え、本年度では(1)注意力向上のためのバイオフィードバック技法の適用可能性についての検討、(2)注意メカニズムの心理的背景となる精神力についての競技種目別検討を質問紙調査法に基づくその構造分析、などについて研究を行った。 (1) 大学テニス選手を対象に、大学選手権大会前3ヶ月間、前頭筋のEMGバイオフィードバックトレーニングを行った。EMGバイオフィードバックトレーニングにより、自己の緊張状態といった内面的な気づきが向上し、随意的なコントロールが可能となった。また、その結果、トレーニングで修得されたイメージに基づき、競技中にそれを利用することで心理的な緊張といった競技不安の有意な低減をもたらし、注意集中を可能とし、高い運動パフォーマンスの達成が認められた。この実験で得られた重要な点は、注意力向上のためにはEMGバイオフィードバックを用いて比較的短期間で達成できることであり、本実験では週3回、1回に尽き15分で9回目から随意的コントロールが可能となることを見出したことである。 (2) 競技経験3年以上の大学生選手305名を対象にして、競技種目類型別の注意メカニズムの心理的背景となる精神力について検討を行った。その結果、個人型競技では不安感情に基づく注意集中妨害、チーム型競技では状況判断速度の遅さの要因が見出された。
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