本研究では、スポーツ法学の研究で先んじているアメリカと我が国の体育・スポーツにかかわる紛争、訴訟に焦点をあて、その傾向はどのようなものか、アメリカでは、スポーツ参加に関する事例のうち、とくに女性に関する事例、ドーピングに関する事例、障害者に関する事例などには如何なる判断がなされ、また、関連する法規には、どのようなものがあるのかを検討してきた。日本については昭和28年創刊の判例雑誌(判例時報)から検討する限り、やはり事故の損害賠償の訴えが多い。体育・スポーツに関係する用語の入った事例をすべて取り上げた場合は約600事例のうち半数が事故問題であった。アメリカで多くみられるスポーツ参加に関する訴えは、今日まで大変少ないと言える。 アメリカの男女の平等機会については、教育修正法のTitleIXが大きな影響を及ぼしている。とくにTitleIXを根拠とするものは大学の女子競技の不平等(待遇、ルール、奨学金、予算)に関する事例が多く、判断は概ね女性側の主張が認められている。また、ドーピングテスト(アメリカではドラックテスト)に関わるケースでは、選手の権利意識が高いアメリカは、訴訟を通してこのテストの合法性そのものが問われている。そこで重要な争点となったのは、「不法な捜索及び押収を受けない権利」と「プライバシーの権利」という合衆国憲法及び州憲法上も認められる個人の基本的権利が侵害される可能性があるという点であった。障害を有する者のスポーツ参加については、一連の障害者差別禁止諸法によって、一般のスポーツ参加が認められてきた。そして今日では、障害をもつアメリカ人に関する法によって、プロスポーツの範囲までその参加の機会が問われ、かつ保障して行こうとする方向にある。
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