研究概要 |
本研究では、温熱負荷による発汗初期の中枢性(発汗波)・末梢性活動を長期運動鍛練者と非鍛練者で比較検討し、皮膚温、皮膚血流量の測定結果とともに解析することで長期運動鍛錬による暑熱順化機序をより詳細に解明することを目的とした。 被験者は、鍛練者群として運動部に所属する健康な男子学生5名と非鍛練者群として定期的な運動(最近2年以上)を実施していない健康な男子学生5名とし(但し、本学部の設備等の都合で、実験は本学熱帯医学研究所環境生理学教室の小坂教授のもとで実施した)、自転車運動負荷時(80W強度)の体温調節反応の測定を行った。鼓膜温、皮膚温、局所発汗量(カプセル法)、発汗量(体重法)、心拍、皮膚血流量(以上現有装置)、発汗波(前腕部か右肩背部2箇所)、酸素摂取量の測定を実施し、平均皮膚温、平均体温、汗の拍出頻度、を算出した。 運動開始直後に両群とも鼓膜温、皮膚温ともに初期降下傾向を示した。運動中の鼓膜温の変化は両群ともほぼ類似した傾向を示したが、平均皮膚温の変化は非鍛練者に比べ、鍛練者の初期降下が小さい傾向であった。温熱負荷中の発汗潜時は非鍛練者に比べ鍛練者で長く、運動中の発汗量は鍛練者で少ない傾向を示した。また、運動初期の汗拍出頻度は非鍛練者に比べて鍛練者で少ない傾向を示すとともに、平均体温に対する汗拍出頻度の関係は、非鍛練者群では5人中2人だけが有意な相関を示したが回帰係数は低い値(M=3.68,SE=2.35)であった。一方、鍛練者群では全被験者が有意な相関を示し、回帰係数は高い値(M=21.12,SE=3.21)を示した。これらの結果は、鍛練者の汗拍出頻度は非鍛練者より低いが、その範囲で一定の体温の上昇に対して幅広い拍出頻度によって発汗量を微細にコントロールしていると解釈できる。
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