本研究は、運動の影響を多面的に評価し、相互の関係や個人差までも捉えることを目的とした。さらに基礎的検討として、精神状態を操作した時の免疫系の反応をみた。 1.笑いや恐怖を喚起する刺激とジョギングを用いた実験研究からは、以下の結果が得られた。 (1)衝撃映像を用いた不快な情動刺激による精神状態や免疫能への影響は特にお笑い刺激による変化と大きく隔たっており、ネガティブな方向への精神状態の変化やNK活性の低下などが著明であった。お笑い刺激による精神状態の好ましい変化も著明であった。 (2)2種類の情動刺激は心身両面への影響方向を異にしていた。刺激の段階評定と刺激によって生じた精神面あるいは免疫能を含む血液検査値の変化にはある程度関連がみられた。 (3)運動による精神状態の変化は衝撃映像刺激よりは好ましいものであったが、期待したほどではなかった。運動の強度が高かったかもしれない。運動後は白血球像に変化が見られた。 2.有酸素運動の長期的心身影響の実験的検討からは以下の知見を得た。 (1)2カ月間程度の有酸素運動が、日頃運動不足気味ではあるが、健常な実験集団においては、体力面の改善(無酸素能の増大、体重・体脂肪率の減少等)、精神状態の改善(不安や抑うつの低減、気分の改善等)、健康調査票における愁訴状況の改善等をもたらした。 (2)日頃からより高頻度に高強度で運動をしている女子運動選手に2カ月の間隔をおいて、実験集団と同じ心理テストを実施したところ、精神状態には変化がみられなかった。 (3)異なる側面間には、不安の低減は有酸素能が改善しない人で著しいという関係が見出された。 (4)特性不安や抑うつ度、年齢の高い人で、精神状態の改善が著しいという個人差が認められた。
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