上肢あるいは下肢において両側同時に動作を行った場合、一側単独の場合と比較して機能低下(bilateral deficit)が観察されることが報告され(Vandervoortら、1984;Kohら、1993など)、このbilateral deficitに対してレジスタンス・トレーニングが及ぼす効果については、両側性トレーニングを行うと両側同時条件での力発揮が増加し、一側性トレーニングを行うと一側単独条件での力が増加するというトレーニング効果の特異性が存在することが明らかになっている(谷口、1993、1994、Taniguchi、1997)。現在、bilateral deficitに関与していると考えられている主なメカニズムは、a)注意の分散、b)相反性抑制、c)大脳半球間抑制の3つである(Ohtsuki、1994)。一昨年度の研究結果から、筋力発揮時にみられる両側性機能低下と反応時間に見られるそれとは異なるメカニズムによって制御されている可能性が出てきた。そこで、それぞれのメカニズムを個別に検討することにし、昨年度は反応時間について、左右の半視野刺激を用いて、両側反応を統合する中枢の存在する大脳半球を推定した。今年度は筋力発揮について、上肢または下肢の両側性または一測性のレジスタンス・トレーニングが、トレーニングを行っていない下肢または上肢の両側性機能低下に及ぼす影響を調べ、トレーニングによる両側性機能低下の特異的修飾が大脳皮質レベルのメカニズムによって制御されている可能性を検討した。 被検者を両側上肢トレーニング群、一側上肢トレーニング群、両側下肢トレーニング群、一側下肢トレーニング群、対象群に分け、トレーニング群には等速性腕伸展パワーまたは脚伸展パワー測定装置を用い、6回3セット、週3日、6週間トレーニングを行わせた。トレーニング開始前、3週後、6週後に両側性および一側性の等速性腕伸展パワーおよび脚伸展パワーを測定し、トレーニングを行わなかった下肢または上肢にトレーニングによる両側性機能低下の増減がみられるかどうかを検討した。非鍛錬肢については、一側トレーニング群の両側指数(bilateral index;BI)(Howard & Enoka、1991)が鍛錬肢と同様、負の方向にシフトしたのに対し、両側トレーニング群では、鍛錬肢と同じ正の方向にはシフトしないことが明らかになった。
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