通常、歩行速度を上げると、日常歩行に比し特に膝・股関節筋の筋放電が増大し、筋電図パターンも変化することが知られている。今回、歩行速度を上げないで歩行姿勢をごくわずか変化させることによって、下肢・躯幹筋に与える影響を筋の作用機序の面から検討した。また、歩行姿勢を矯正するための筋を筋電図パターンから検索し、筋電図バイオフィードバック法に適応しようとした。 下肢動作の変化について内股・外股歩行を検討した結果、内股歩行では下肢・躯幹筋の筋電図パターンは、日常歩行と比べると殆ど変化はみられなかった。一方、外股歩行では、日常歩行と比べると躯幹筋の筋電図パターンには変化がみられなかったが、下肢筋の筋電図パターンでは顕著な差異が認められた。すなわち、着地直後から踵押し上げの間、大腿直筋と大殿筋に持続放電が認められた。 上体姿勢の変化について、猫背姿勢と背筋を伸ばした姿勢を検討した結果、猫背姿勢の歩行では下肢・躯幹筋の筋電図パターンは、日常歩行と比べると殆ど変化はみられなかった。しかし背筋を伸ばした歩行姿勢では、日常歩行と比べると下肢・躯幹筋の筋電図パターンには顕著な差異が認められた。すなわち、躯幹筋では日常歩行と比べ、仙棘筋上部、外腹斜筋に強い筋放電がみられた。下肢筋では日常歩行と比べ、着地直後から踵押し上げの間、大腿直筋と大殿筋に強い持続放電が認められた。要するに背筋をのばした歩行姿勢は下肢筋の働きにも影響することがわかった。良い歩行姿勢は背筋を伸ばすことが大きな要因と考えられているが、筋電図的解析結果から躯幹筋の仙棘筋上部、外腹斜筋が背筋を伸ばす姿勢に関与していることが判明してきた。それゆえ、歩行姿勢を矯正する時、これら二筋は筋電図バイオフィードバック法に適応できることが示唆された。
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