加齢に伴う歩行姿勢の変化が下肢・躯幹筋にどのような影響を与えるかを筋の作用機序の面から検討した。高齢者歩行の特徴は、膝屈曲、小股すり足、スロースピードであるが、今回は、高齢者歩行の中で上体姿勢の変化に焦点を当てた。成人について上体姿勢を変化させた各種条件歩行を行い、老化予防の歩行法があるかどうかを検索しようとした。 体前傾姿勢である高齢者歩行では、特に抗重力筋であるハムストリングス(HM)に着地からpushoffのまで強い持続放電がみられたが、この放電様相は成人の通常歩行ではあまりみられなかった。 このHMの持続放電は3歳頃までの体前傾姿勢の乳幼児歩行に認められることから、休前傾姿勢保持に参画すると考えられる。加齢に伴う体前傾姿勢の高齢者歩行は乳幼児歩行の筋電図パターンに極めて類似していることから、高齢者歩行は筋力・バランス機能の未発達な乳幼児歩行パターンに退行していくものと推測される。さらに成人の体前傾姿勢歩行をみると、着地以降に上体直立に働く仙棘筋上部に強い持続放電はみられず、HMに過剰な持続放電がみられた。しかし、背すじを伸ばした歩行では仙棘筋上部が働き、HMの放電が減少・消失した。 要するに、歩行中、上体を意識的に体直立姿勢に保持すると上体前傾保持に働くHMの筋放電が抑制され、合理的な筋活動を行う成人歩行パターンを示すことが明らかとなった。背筋の衰えによる体前傾姿勢は高齢者歩行の特徴であるが、意識して背すじを伸ばすことは成人歩行パターンを維持・回復する上で重要なポイントであるとともに、老化予防の歩行法であることが指摘できる。
|