今年度は、ポリティカル・エコロジー論、脆弱性論に関する最新の出版物の収集、整理に努めた。この中では、R.L.Raymond & S.Baileyの『第三世界のポリティカル・エコロジー』(1997)とR.Peet & M.Wattsの『リベレーション・エコロジー』(1996)を特に詳細に分析し、その成果の一部を地理科学学会で「環境地理学の新しい地平-ポリティカル・エコロジーの可能性をめぐって-」と題して発表し、またアジア経済研究所の研究会の報告論文として「ナイジェリア農業研究の新しい地平-ポリティカル・エコロジー論の可能性をめぐって」をまとめた。 一方、ポリティカル・エコロジー論の開始と脆弱性論の理論化に向けて主導的役割を果たしているカルフォルニア大学のワッツ教授他に会い、現在研究代表者が取りまとめつつある、ナイジェリアとザンビアにおける農村研究の成果に関するレビューを受けた。ワッツ教授他との意見交換では、最近の欧米のポリティカル・エコロジー論者の中心的研究課題が、構造主義から離脱しポストモダンの視点を模索している様子が伺えた。しかし、現在のアフリカ農村社会で顕現している脆弱化の分析にあたって、彼らが主張する様々な行為主体(アクター)の、日常的行動に見られる意味論的解釈がどの程度有効なのかについては、今後さらに検討されるべき点があると思われる。
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