研究概要 |
金融機能の分析には,つねに資料の欠如の問題が生じる.今年度は,全国銀行(都市銀行・地方銀行・長期信用銀行・信託銀行)の都市別貸出金と預金額の1960,70,80,90,97年に関する数値分析を行った.その結果,東京・大阪・名古屋への資金の蓄積と貸出が特化し,三大都市圏化が着実に進行している.なお,資金の地域的流動の資料は入手できないため,預貸率(貸出金額/預金額×100)によって資金の地域的流動を推測した.ただし,東京大都市圏と阪神大都市圏と比較して,名古屋大都市圏の金融機能の伸びは遅行していることが注視される. 三大都市圏の下位に広域都市群(福岡・札幌・広島・仙台など)が金融機能を伸長させている.そして,さらに低位には県庁所在都市などの地方中心都市群が位置して,局地的な金融圏の中核の役割を担っている.このように,金融機能からみても,都市階層化が明確に進行している.上記のように資金の地域的流動の資料が不足するため,金融機能による精緻な都市システムを解明できないことが課題である.しかし,重力モデル等を利用して分析を進めることは,今後の課題としたい. 一都市レベルでのミクロ分析は,茨城県のひたちなか市で実施した.金融機関の当初の集積地は那珂湊地区であった.その後,地方銀行Jは,平磯地区(1920年)に店舗網を拡大し,勝田地区(1943年)に支店が立地するのが遅れた.しかし,第二次世界大戦後,勝田の駅前に金融機関が集積した.しかし,1980年代に入って新しく敷設された大通りに沿って,金融機関が立地しはじめ,当然,金融機関の郊外化が進行した.このように,一都市の拡大過程も金融機関の立地展開から分析することが有効であることが解明された.金融の都市システムを垂直的(マクロ)分析と水平的(ミクロ)分析と結合させて進めることも今後の課題としたい.
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