研究概要 |
わが国の1990年センサスでは、人口移動の定義が変更されたため、それ以前の1970・80年センサスで表章されている移動データとの直接的な比較が困難になった。われわれは、1990年センサスにおける定義に基づいた、1965-70年と1975-80年の移動データの推定を可能にする補正方法を案出し、その詳細を石川・井上ほかの連名で「人口学研究」23号に発表した。これは、10の年齢階級ごとの9地域間の人口移動という枠組みを念頭に置いて開発されたもので、各地域ごとの5年間の人口数の変化から自然増加を差し引いて得られる純移動数に釣り合うように、地域間移動の推定値を求める点に基本的な眼目がある。この補正方法の適用によって、1965-70年、1975-80年、1985-90年の三つの期間にわたる移動パターンの比較が可能になった。 こうして準備されたデータを用いた研究の一例として、石川は、日本・スウェーデン・カナダにおける1970年代・80年代の人口移動転換に関する国際比較を行い、その成果を、International Jour-nal,ofPopulatjonGe′ography誌の第5巻1号に英文論文として発表・した。19ノO年代以降、上記゙3ケ国を含む多くの先進諸国の国内人口移動パターンにおいて、共通する変化が観察された。この論文の主たる貢献は、かかる共時的変化が、戦後の出生率の変化に起因する若年人口の供給数の変化という人口学的要因と、それに連動した労働市場の再編という経済的要因によって説明されることを明らかにした点にある。
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