この研究計画の出発点となったのは、わが国の1990年の国勢調査において、1970年や1980年の国勢調査とは異なる人口移動の定義が採用された結果、人口移動データの時系列比較が困難になったという危機感であった。この定義変更にはそれなりの理由があり、その意味でやむないとも考えられる。しかし、国勢調査は人口に関するあらゆる統計の基本であることを考えれば、この変更に影響されない、換言すれば、比較可能なデータの推計を行える方法を案出できないだろうか、というのが、われわれの当初の願望であった。なお、この問題は、諸外国の国勢調査に掲載されている人口移動データの比較可能性に通底する、きわめて重要なインプリケーションを持っている。 推計の方法論自体は比較的早く考案できたが、そのさい置いた仮定が経験的データによってうまく満たされず、今から回願すれば、その点がここ3ケ年の研究における最大のハードルであった。しかし、最終的にこの隘路を打ち破ることができ、当初予定していた、時系列比較を許す推計値の入手も可能になった。これを用いて、日本と他の二つの先進国-スウェーデンとカナダ-の人口移動転換の決定因を探る国際比較への道が、切り開かれることになった。 したがって、当初われわれが意図していた研究計画は、順調に終了する段階を迎えた。なお、当初の研究計画にはなかったが、得られた推計値を用いた、人口移動スケジュールの地域間変動や時間的変化をめぐる国際比較に関する研究に関しても、一定の関心を注ぎ得た。
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