本研究では、明示的に時間次元を扱うことのできる地理情報システム(GIS)の開発と時空間データベースの編集を通して、都市地理学の研究に多様なかたちで時間次元を導入し、都市の空間構造に生起する過程を明らかにすることを目指した。研究主題として、24時間周期の変化すなわちデイリー・リズムに関するものと、都市化のようにより長期的な変化に関するものを扱い、前者の例として、1980年および1990年に実施された京阪神都市圏パーソントリップ調査のデータを用いた都市のデイリーリズム、後者の例として1980年および1990年の国勢調査メッシュデータを用いた、都市化、郊外化の分析を行った。 以上の事例研究と平行して、GISにおける時間次元の重要性について、以下のような原理的な検討を行った。GISにおける時間次元の導入を包括的に扱ったものとしてG.Langran(1992)"Time in Geographic Information Systems"があり、またSintonの図式が知られているが、それらの諸概念を検討し、本研究としての概念を以下のようにまとめた。GISなどで用いられる空間データのモデルは、大きく分けて「ラスターモデル」と「ベクトルモデル」に分けられるが、本研究では、この識別概念を時間および時空間にも拡張し、「充填モデル」と「境界記述モデル」を設定した。時間および空間において、連続的に変化し、補間が可能であるような現象には「充填モデル」がふさわしく、内部が均質で境界が明確であるような現象には「境界記述モデル」がふさわしいと考えられた。本研究の事例である都市的諸現象には、「充填モデル」を主として適用した。
|