研究概要 |
本研究では、1990〜1992年の6,7月を対象とし,地上天気図上の112°Eにおける前線出現緯度に基づいて,梅雨前線が南下する場合と停滞する場合を抽出し,梅雨前線構造ならびに梅雨前線近傍の降水・雲分布の差異を解析した.梅雨前線構造の差異は前線北側の大気鉛直構造に認められ,停滞する場合には前線北側の対流圏中層に乾燥域が存在し,一方南下する場合には対流圏下層に顕著な低温気塊が認められた.これらはそれぞれ,対流不安定性の生成や湿潤空気が上昇を開始するきっかけをもたらし,降水発生と密接に関連していると考えられる. 梅雨前線に伴う降水分布についても,停滞する場合には降水の空間的な集中性が高く,南下する場合には多降水域の南北幅が広いことが示された.さらに気象衛星ひまわりの雲画像マイクロフィルムにおける輝度分布を画像解析した結果,停滞する梅雨前線近傍では,空間的に集中した背の高い対流雲域の南北両側2.5°付近に中層雲以上の卓越域が存在し、さらに南北両側に向かって漸次雲量が減少する.つまり,対流雲域を挟んで南北方向に対称的な雲分布構造をしている.一方,南下する梅雨前線近傍では,背の高い対流雲の出現頻度は停滞する前線と比べてやや低いが,その北方において,広範囲に背の高い対流雲を含む対流圏中層以上に雲頂をもつ雲域が存在し,南北方向に非対称な雲分布構造をなしている.以上のように,停滞する梅雨前線と南下する梅雨前線の雲分布構造の差異は,特に雲分布中心の北側において顕著に認められ,このことは両者の前線構造の差異が前線北側における温度や水蒸気量の鉛直分布の違いとして認められたことと無関係ではないと考えられる.以上のような降水の空間的な集中・分散性や雲分布構造は梅雨前線近傍における水循環を考える上でも重要な要素と考えられる.
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