研究概要 |
本研究では,擾乱帯としての梅雨前線を850hPa面における相対過度場によって把握し,梅雨前線擾乱の出現位置(華南/華中)によって擾乱出現に関与する循環場が異なる可能性を提示する.用いた資料は1990〜1995年における5月31日〜7月29日の気象庁全球客観解析データと世界気象ファイル収録の降水量データである.解析方法として,まずチベット高原東方における850hPa面相対過度場にバリマックス回転因子分析を施し,累積寄与率が50%以上となる上位10因子を取り上げた.次に因子の時間推移系列から梅雨前線擾乱の発達段階と考えられる因子(第1,第3因子)を選定した.これら2因子の得点によるカテゴリ毎に相対過度場,風系場,降水分布の合成図を作成し,また各因子得点の時系列と高度場,気温場,風系場との相関係数の分布を求めた. 第1因子は,華南に低気圧性過度帯が形成され多降水帯が現れるか,高気圧性過度が卓越し少雨域となるかに関与しており,華南〜南シナ海北部における風系とも関連を認められた.一方,第3因子は,華中における低気圧性過度帯の有・無と関わっており,前者の場合には長江流域に多降水帯が現れる.第3因子の得点時系列と850hPa面高度場との相関解析によると,華中の降水帯形成時には華中の低気圧発生に先行して高原に沿う小高気圧の移動があり,さらに高原東側では北風の強化と気温の低下が生じている.また,500hPa面高度場においては,40°N付近をトラフが東進している.一方,第1因子の得点時系列を用いた相関解析によると,華南の梅雨前線擾乱の出現は南シナ海〜東南アジア域の高度場・気温場との関係が認められた.以上のことから,華南と華中の梅雨前線擾乱は発現・発達の背景となる循環場が異なっている可能性が示唆される.
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