本研究の目的は、基本的には群落学的手法を駆使ながら富士山の垂直分布帯の変動を抽出することにある。このために本研究期間中に1)空中写真の判読、2)現地における植生調査ならびに気象観測、3)文献・資史料による検討を行った。 米軍・国土地理院・林野庁によって撮影された空中写真は1946年〜1993年の間に11回を数え、亜高山帯林分へのさまざまな攪乱の実態を捉えることができた。これらの中で雪代と呼ばれる湿性雪崩の影響は特筆される。 現地調査の対象地域は北西斜面樹木限界以下に設定したが、すでに報告のとおり、当該地域には階段状の微地形が発達している。この微地形は植生分布にも大きく関わっている。従って、この微地形の成因解明は植生分布帯変動の実態解明にも直接的に関係する。このためにペイントラインを設定して砂礫の動きをチェックし、また凍結融解がどのように生起するかを推し量るため、気温・地温・積雪深の観測を行った。当初、現在も周氷河作用が機能していることを予想していたが、ペイントラインの乱れは小さく、凍結融解期間も短いことが分かった。一方、これらの階段構造は森林中にも追尾できることが分かった。これらのことと当該地域が風衝地であることを踏まえ、この階段構造はむしろ寒冷期に形成されたもので、現在、融雪季などにおける流水によって平準化されつつあるのではないかという想定に至った。従って、富士山北西斜面における植生帯は微地形を拠り所にまさに一次遷移の途上であるということになる。 資史料からの検討という点では未だ想像の域を脱せず、残念ながら江戸期と現在の植生帯の差異についての有意な情報を得るには至っていない。
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