本研究は中等教育段階における古典教育不振の原因を、学習指導要領に基づいた学校における教育内容と大学入試に対応する教育内容との問に開きがあり、二極化した状況に由来するとの仮説に立ち、その実証的考察を試みるものである。具体的には大学受験が激化してくる昭和40年代以降を対象として以下の4項目について調査・研究を行う。(1)教科書の学習の手引きの内容 (2)古典教育関連の実践報告 (3)主な国立大学や私立大学の入試問題の内容 (4)大学受験用参考書の内容 これら4項目についての検討を通し、二極構造の内実を明らかにし、その解決の方途を検討する。 本年度は調査研究に用いる諸資料の収集を主に行ったが、併せて試行的に『伊勢物語』を対象に上記4項目の研究を行い、その発表を第97回全国大学国語教育学会(1997.11.14:大阪教育大学)において行った。 高等学校において目指されている授業(学校古典)が解釈の多様性や認識変革にまで至ろうとする、いわば文学教育としての指向性を持つのに対し、大学受験に対応するもの(受験古典)は文法・語彙習得中心で口語訳完成を求めるものであることを示した。それを裏付ける資料としては、学校古典では教科書の学習の手引きと教師用書の発問例、実践報告であり、受験古典は教科書傍用タイプの参考書、受験参考書と入試問題である。 この試行的な研究により、他の教材においてほぼ同様の結果が予測されるが、次年度以降は教材範囲を広めて行うのと、教科書に所収されない文章が入試問題に出題される場合の、問題の内容を検討する予定である。
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