当初の研究計画に基づき、本年度は次のような研究を実行し、成果を得た。 1. 昨年度に引き続き、教科書資料の概要を把握した。特に、京都府総合資料館他における調査に基づき、明治初期の京都府における作文教科書資料の所在等を把握した。 2. 1に基づき、明治初期の男女別作文教育の実態を解明する上で有益と思われる作文教科書資料原本(『今体頴才文粋』明治12刊・槙村正直著『中学開業祝詞』明治6刊他)、また京都府の明治初期国語教育に関わる原本資料(『槙村正直履歴書』・『和漢文類』他)を、継続的に収集した。 3. 以上の成果をふまえ、およそ次のような考察結果を得た。 (1) 明治7年、文部省が編集発行した最初期の作文教科書『書牘』は、すでに先行して進められていた京都府における作文教科書の独自発行を意識したものである。 (2) 文部省『書牘』のきわだった特徴である、従来の男子文に多い「転倒語」と女子文に多い「無用の辞」を廃止した文体は、少なくとも明治十年代においては一般化せず、むしろ、高等教育を受ける機会を得た極少数の女子の側が、男子の「転倒語」の多い漢語がちの文体へと接近する形で、男女文の<同一化>が行われた性格が強い。なおこれらの考察は、「明治前期作文教育と文部省編『書牘日用文』-国語教育前史論5-」(平成11年3月発行『岐阜大学国語国文学』25号)としてまとめられた。 以上の考察結果を踏まえながら、平成11年度の研究計画においては、今年度の研究計画での積み残しである明治初期稀覯作文教科書資料の映像保存(MO化)、および、最終的なとりまとめをおこなっていきたい。
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