本年度は次の2点をアンケート調査した。1)粒子概念の原子・分子について既習者はどのように納得したかを考察した。初期における納得した理由のほとんどは、教師が言ったから、本に書いてあるからという受動的な受けとめ方である。発達段階にしたがって、全体での割合は少ないが、この理論を使った方が説明がつくといった自主的な判断への移行が進む。目に見えない粒子をイメージ化できることで納得する過程が伺える。さらに化学修学者では、実験を伴うためその理論を受け入れなければ説明がつかないという現実感が感じられた。このことは、学問としての原子・分子ではなく実在の物質の存在感から迫る必要を示唆している。2)中学生のイオン学習については、非日常的現象の中で学校教育の必要性を意味しているが、認識はかなり低いと思われる。これは、既習者(高校生・大学生)へのどうようのアンケートからみえてくる。その最も主要なところは、イオン性物質はもとの原子よりはイオンが安定であり、価数は電子配置に因るという化学的素養を必要としているので、中学で完全に理解することは困難である。したがって、高等学校への内容移行は意味をもつが、同時に現在の高等学校の教授法では問題があることも指摘しておく必要がある。これらの教材では、次の点を検討した。1)の分子の実在を見せるのは、ブラウン運動の解析である。2)のイオンの実在については、浸透圧のΠV=nRTにおける電解質と非電解質のnの扱い方を検討することであろう。物質がイオンに分かれていなければ成立しない。これら2点は昨年同様化学史での重要な出来事であり、見直して教材とすべきであろう。また、我々は、高分子膜へ物質(色素とのイオン会合体)が浸透するときに、選択性があり簡易分析法として有用との知見から、化合物の大きさやイオンの大きさを実験的に比較できる教材を検討中である。
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