研究概要 |
今年度は、昨年度に明らかにした日本における「家族・家庭生活・性」に関する教科学習や総合学習の現状・成果・課題などをふまえつつ、1980-90年代におけるアメリカ合衆国の家族生活教育(family life education)の取り組みを中心に以下の検討を行った。 (1)1980年代に行われた中等レベルの家族生活教育実践に関する全米調査の結果を考察した。(2)NCFR(the National Council on Family Relations,全米家族研究協議会)が1980-90年代にかけて精力的に行った家族生活教育実践の概念的整理とそれをもとに提案された初等・中等レベルの家族生活教育試案を検討した。 アメリカ合衆国では、1980-90年代にかけて、家族生活教育において子どもたちの現実の問題を取り上げ、自己肯定感につながる内容構成と学習方法を重視した結果、以下の点が実践構想に組み込まれたことが明らかになった。内容については、「セクシュアリティ」が重視されるようになり、家族生活教育の内容は7つのトピックス(人間発達とセクシュアリティ、人間関係、家族の相互作用、家族資源の管理、親になることに関する教育、倫理、家族と社会)とプロセスの3つの鍵(コミュニケーション、意思決定、問題解決)で整理され、両者は相互に関連し、各トピックスも相互に関連し、学習単元を構成するとされた。また、「近代家族」やジェンダーの視点が組み込まれ、「個人と家族の生活」の探求を家族生活教育の目的としたり、「近代家族」を相対化できる内容を組み込み、ジェンダーの視点でカリキュラムを問い直す重要性が示されるようになった。学習過程については、子どもたち自身が地域で体験し活動する、性や家族に関する現代課題や問題の議論に参加する、性や家族に関する言説を批判的に検討するなどの機会を保証する視点が組み込まれるようになった。
|