「北海道版検定国語教科書」は、A:28年度、B:29年度改訂版、C:31年度新版の三種類(いずれも藤村作・北海道国語教育連盟編、教育出版発行)が編纂・発行された。そのうち、A:昭和2年度版、B:同29年度改訂版は一年生から六年生までの全学年で編纂・発行された(それぞれ13冊)が、C:同31年度新版は三年生までの七冊が発行されたところでそれ以上は発行停止ということになった。折しも教科書採択を巡る教科書問題が国会で取り上げられ、地方版教科書を認めないという政治決断がなされたためであった。 A:28年度、B:29年度改訂版が北海道の実態に合うように全国版「小学国語」の挿絵・素材を北海道用に改編したのに対して、C:31年度新版はさらに積極的に北海道色を出そうとして教材の改編を中心にするものであった。その意味で、C:31年度新版は本格的な北海道版国語教科書の成立を意図していたのであった。 上記の事情で四年生以上の教科書作成は不可能になったが、その精神は、『標準 小学国語 北海道資料編』(4年〜6年、北海道国語教育連盟編、昭和33年5月、教育出版発行)という三冊の資料集の形で継続されることになった。児童向けのものは作成できないので、あくまで教師向けのものであった。その中には、たとえば、「民族童話-オキクルミ神のあまくだり、月男-」などのアイヌ童話、北海道開拓の基礎を確立した「最上徳内」の探検物語、あるいは「手紙-北海道から東京へ、東京から北海道ヘ-」という近況報告(手紙)文、さらには「北海道をひらいた人-渡辺かね-」 (以上、四年)と、地方版教科書の継続が許されていればおそらく採録されたであろう作品・文章が数多く収載されたのである。こうして「北海道には北海道にふさわしい国語教科書」という北海道国語教師の悲願が継続されたのであった。
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