本研究の目的は、教授学的実験を通じて、カブリ・ジオメトリーの利用による幾何の問題解決活動の日仏比較文化的研究を行なうことである。この研究目的に対して、日本において4つの教授学的実験を実施した。対象生徒は中学校2年生で、実験問題は幾何の証明問題である。 実験1:紙と鉛筆によるペアでの問題解決活動 実験2:カブリの利用によるペアでの問題解決活動 実験3:紙と鉛筆による個人での問題解決活動 実験4:カブリの利用による個人での問題解決活動 次に代表的結論を挙げる。(1)紙と鉛筆環境での生徒の「作図活動」は、三角形のプロトタイプ(典型事例)に依存する傾向があったのに対して、カブリ環境の生徒の「作図活動」は三角形のプロトタイプに依存しない傾向が見られた。(2)紙と鉛筆環境での生徒の「証明活動」は、三角形のプロトタイプに依存した証明の手続きを利用する傾向があったのに対して、カブリ環境の生徒の「証明活動」は三角形プロトタイプに依存しない傾向が見られた。とくに、生徒のプロトタイプへの依存は、証明問題の解決における困難の1つの原因となった。(3)個人での問題解決活動では、三角形のプロトタイプに基づく視覚的判断を「推測の根拠」とする傾向があったのに対して、ペアでの問題解決活動では視覚的判断の非妥当性を議論を通じて検証する傾向が見られた。(4)とくに日仏比較文化的視点から実験結果を考察すると、幾何の証明問題の解決における三角形のプロトタイプへの依存は、わが国の生徒の特徴であり1つの教室文化を生み出していると見ることができる。また、カブリによる学習環境の設定は、生徒のプロトタイプへの依存を解消する手段となると考えられる。
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