研究概要 |
日本語教育の教室は,異なる文化的背景をもつ者が日本語学習という共同作業を行う場である。本研究は,日本語学習のプロセスを社会的スキルの習得と態度変容の過程として捉え,実習の教室をフィールドとして,実習生と学習者双方のもつ文化的要因が,この共同作業にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。しかしながら,諸般の事情で異文化要因を探る調査の実施が困難となったため,主として実習生側の態度変容と教授行動の変化の関係に焦点を当てて研究を進めてきた。 具体的には,言語学習ビリーフ調査や授業に関する意識調査とともに,実習の前後で「外国人に対する日本語の授業」のイメージがどのように変化するかを,個人別態度構造分析の手法をもって探った。その結果,学部レベルの実習生の日本語の授業に対する態度は,実習前には日本語の授業と自分との係わりが希薄であるのに対し,実習後には,教師が弁えているべきことや学習者にさせたいこと,あるいは,実際に授業で行った活動や自分の授業では実現できなかったことなど,自分に係わるイメージに変化し具体化する。しかし,8週間程度の実習では,実習生の意識は学習者と授業との関係を意識するには至らない,と言える。 次に,1年程度の現場経験のある大学院レベルの実習生と現職の日本語教師について,同様の手続きで分析したところ,この2者は,「授業に臨む際に心がけていること」を持っている点で,学部生とは異なっていることがわかった。しかし,授業と自分,授業と学習者の係わりについての意識は,現場経験のある院生でも,まだ,自分が中心で,現職教師が見せた,学習者がどのように学習するか,学習とはどのようなものなのか,という意識とは大きく隔たっていて,短い経験では,異文化接触・理解の観点まで取り込む所には到達しないようだ。
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