研究概要 |
本研究では,市場モデルの計算機への実装と現実のレートの予測・リスク制御を目標とし,マルチエージェント・アプローチに基づく,ミクロからマクロへの統一したモデルを構築するために必要不可欠な前段階の分析として,個人の情報処理過程の解析とゲーム理論の枠組による市場の分析の二つを行なった. 現在の時点までに,実際に外為市場に参加している約30名のディーラーに対して,実際の意思決定現場における情報の種類,予想形成の方式,学習のメカニズムに関するインタビューを行ない,得られたプロトコルデータを認知科学の学習理論の知見から分析を一通り行った.現時点までの分析結果においても,為替ディーラー個人の意思決定において,予想期間による予想方式の違いや,他人の予想方式の模倣などのディーラー間の相互作用が存在することが明らかになった. フィールドワークや国際金融情報センターが実施しているアンケートデータにより,実際の外為市場に参加している市場参加者の種類やそれぞれの利得の構造等を明らかにして,市場参加者個人の意思決定後からマクロレベルの為替レートが決定されるまでを社会的ゲームとして理論的にモデル化をし,コンピュータ上に実装した. 上記の外為市場全体のモデルのより簡略化した試作版を計算機上に実装した.そしてこのモデルの計算機シミュレーションを行ない,実際の為替レートのデータを用いてモデルの有効性をテストとして,過去のデータを用いて,この試作版を検証したが,1990年代初頭の為替レートのバブル現象など,従来のモデルではうまく説明できなかったいくつかの現象の解明に成功している.
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