本研究は化学構造全体からみた漠然とした分子の“類似性"あるいは“多様性"を定量的に評価するための方法を考案するとともに、そのシステム化を目指すものである。ここでは、トポロジカルな構造情報のみに注目した構造類似性の定量的評価を対象とし、構造情報の記述に際しては、別途、筆者らが提案した化学構造式のグラフ表現にもとづく部分グラフの数え上げ特性をもとに生成されるスペクトル(構造フラグメントスペクトル)表現を利用した。特に、本研究では先に報告した部分グラフの完全列挙にもとづく全スペクトルの利用に対し、生成する部分グラフのサイズを制限した低次のフラグメントのみに注目したスペクトル(前者に対する指紋領域の部分スペクトルに相当)の有用性を検討した。その結果、先に提案した全スペクトルでの解析結果と比較して、より高速な処理が可能であること、化合物サイズの違いによる生成フラグメントスペクトルの次元数の相違によって生じる不合理な解析結果を取り除くことが可能であることを示した。また、化合物データベースにおける構造類似性検索での比較においても同様な結果を与えることを確認しており、その有効性を示すことができた。
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